AIエージェントを入れようと決めたあと、多くの会社が最初につまずくのは技術ではありません。「どの業務からやるか」で止まります。候補はいくつもあって、どれも改善したい。だから決まらないまま、話が次の期へ持ち越されます。
当社は、最初の1つを選ぶときに4つの目安で見ています。この4つを順に通すと、候補はたいてい1つか2つまで絞られます。選び方そのものを開きます。
最初の1つを外すと、その後が全部止まる
最初に選んだ業務がうまくいかないと、社内の見方が「やっぱりうちには合わない」に変わります。二度目の提案は一度目より通りにくくなるので、実質的にそこで終わります。逆に、小さくても目に見えて楽になった実感が1つあると、次の業務は現場の側から挙がってきます。
だから最初の1つは、いちばん困っている業務ではなく、いちばん確実に終わる業務から選びます。ここを取り違えると、難しい業務に挑んで時間だけが過ぎます。
目安1 回数が多いか——月1回のものは後回しでよい
まず回数で見ます。同じ作業が週に何度も出てくるものから選びます。月に1回しか発生しない作業は、仮に半分の時間になっても、戻ってくる時間が月あたり数十分にしかなりません。作る手間に対して返りが小さく、しかも次に発生するのが1か月後なので、直した効果を確かめるのにも1か月かかります。
毎日か、少なくとも週に数回。この頻度があると、作ったものが合っているかどうかが数日で分かります。速く分かることは、それ自体が大きな利点です。
目安2 手順が安定しているか——毎回違う判断が要るものは後
同じ入力なら同じ手順で進む作業から選びます。「相手によって違う」「その時の状況次第」が多い作業は、手順を書き出す段階で止まります。これはAIの性能の問題ではなく、人が言葉にできていない判断がそこに埋まっているからです。
見分け方は単純で、その作業を初めての人に引き継ぐことを想像してみることです。口頭で5分では引き継げない作業は、いまの段階では選びません。

目安3 間違えてもやり直せるか——取り消せない操作を含まない
送信、支払い、公開、削除。この4つを含む作業は、最初の1つには選びません。仕組みとしては人の承認を挟めば安全に作れますが、最初の1つは「動かしてみて直す」を何度もやる段階なので、失敗が外に出ない作業のほうが向いています。
下ごしらえまでを任せて、最後の一手を人が持つ形なら、この条件は満たせます。どこに線を引くかは、別の記事で型ごとに書きました。
目安4 結果を数えられるか——何件、何分と言えるもの
始める前に「いま何件あって、1件あたり何分かかっているか」を言える作業を選びます。これが言えないと、作ったあとで良くなったかどうかを誰も判定できません。社内で次の投資を決めるときに、感想しか残っていないのがいちばん困ります。
数えるのは正確でなくてかまいません。1週間だけ実際に計ってみて、おおよその件数と時間を出しておけば十分です。
4つ通したあとの、実際の決め方
まず1週間ぶんの作業を、粗くてよいので書き出します。次に、上の4つを順に当てて消していきます。回数が少ないものを外し、手順が安定しないものを外し、取り消せない操作を含むものを外し、数えられないものを外す。この順番だと、いちばん外しやすいものから消えていくので早く終わります。
残ったものが複数あるときは、いま人がいちばん嫌がっている作業を選びます。嫌がられている作業は、楽になったときの反応が大きく、次につながるからです。
型ごとの「最初に動かす1つ」
当社が用途別の型ごとに、最初に動かす1つとして決めているものも、同じ考え方で選んでいます。バックオフィス型なら「いちばん時間のかかっている1つの集計を、手元で動く形にします。」、問い合わせ・メール対応型なら「いちばん多い問い合わせ1種類の、仕分けと下書きから始めます。」。どちらも全体ではなく、1つに絞っています。
営業・提案づくり型は「直近の打ち合わせ記録から、提案のたたき台が出るところまで作ります。」、制作・クリエイティブ型は「いちばん回数の多い工程を1つ選び、手元で動くところまで作ります。」、社内ナレッジ型は「よく聞かれる質問の上位だけを対象に、根拠つきで答えられる状態にします。」。最初から全部を対象にしないのは、対象を広げるほど確かめるのが遅くなるからです。
1か月ほどで手元に動くものがあると、その先の話が具体的になります。何を足すか、どこは要らなかったか。机上で決めるより速く、間違いも安く済みます。



