IT担当者がいない会社では、DXを進めるかどうかは結局社長の時間次第になります。とはいえ社長の予定は埋まっていて、まとまった時間は出てきません。そこで、週に1時間だけ取ると決めた場合に、その1時間をどう使うかを書きます。
1時間は短く見えますが、1年続ければ50時間ほどになります。ばらばらのことに使えば何も残りませんし、1つのことに使えば業務が1つ変わります。
1時間を置く場所
最初に決めるのは中身ではなく、置く場所です。「空いた時に」は、まず空きません。カレンダーに毎週同じ曜日と時間で入れ、来客や電話が入りにくい時間を選びます。始業前の30分と、その前後を合わせて取るなど、電話が鳴りにくい時間から選んでください。
もう一つ、ノートでもスプレッドシートでもいいので、1時間ごとに1行だけ書く場所を用意します。「今日やったこと」と「次にやること」の2つを書くだけです。週1回の作業は、前回どこまで進んだかを思い出すのに時間がかかります。この1行があると、次の1時間を思い出すところから始めずに済みます。
決めた時間は、社員にも伝えておきます。火曜の朝の1時間は社長が仕事のやり方を見直している、と分かっていれば、その時間に急ぎでない相談が持ち込まれにくくなりますし、後で現場に話を聞かせてもらう時にも話が通りやすくなります。
最初の1時間は、やらないことを決める
最初の1時間は、何かを始めるより、やらないことを書き出すのに使います。週1時間しかないと、手を広げた瞬間に全部が中途半端になるからです。
たとえば次のようなものは、最初の数か月は外します。
- ツールの比較記事や紹介動画を見続けること
- セミナーに出ること自体を目的にすること
- 全社一斉に新しいツールに切り替えること
- 試す前に年間契約を結ぶこと
- 毎日のAIのニュースを追うこと
どれも悪いことではありません。ただ、週1時間の枠でやると、それだけで1時間が埋まって何も変わらないまま月末になります。やらないことを紙に書いて見える所に置いておくと、1時間の途中で脇道にそれかけた時に戻れます。
書き出してみると、少し寂しくなります。やってみたかったことばかりだからです。それで構いません。消したものは、半年後に見直せば足ります。
試すのは1つの業務だけ
次の1時間で、変えてみる業務を1つだけ選びます。選ぶ目安は、毎週起きていること、誰かの時間を確実に使っていること、失敗してもお客様に迷惑がかからないこと、の3つがそろっているかです。
たとえば請求書を毎月手で作っている、日報を紙で書いて誰かが打ち直している、電話のメモを後からパソコンに移している、といった業務です。お客様とのやり取りそのものは、最初の題材には向きません。うまくいかなかった時の影響が社外に出るからです。
候補が複数あって迷ったら、社長自身が一番「これは無駄だ」と感じている業務で構いません。社長が気にしていない業務は、週1時間の優先順位で必ず負けます。
選んだら、新しいツールを探す前に、すでに契約しているものの中で済まないかを見ます。表計算ソフトやメール、会計ソフトには、使っていない機能が意外と残っています。無料の試用期間があるツールを試すのは、その後で十分です。
現場の人に聞く順番
題材が決まったら、次の何週かは話を聞くのに使います。聞く順番に気をつけてください。
最初は、その作業を実際に手で行っている人です。管理職や、その業務をよく知っていそうな人から聞き始めると、決まりの上での手順が返ってきて、実際の手順とずれることがあります。実際にやっている人の横に座って、1回分の作業を見せてもらうのがいちばん早いです。
聞き方も大事です。「何か困っていることはある?」と聞くと、たいてい「特にないです」で終わります。それより、先週その作業に何回触ったか、1回に何分かかったか、どこで手が止まったか、と具体的に聞きます。答えを紙に写しておけば、後で外部に相談する時の材料にもなります。
次に、その作業の結果を受け取る人に聞きます。請求書なら経理や取引先とのやり取りを持つ人、日報なら読む側の人です。作る側が手間だと思っている項目を、受け取る側は実は見ていない、ということがここで分かったりします。
聞いた後は、何を変えるつもりかを短く伝えます。話を聞かれたきり何も起きないと、次に頼んだ時の答えが薄くなります。変えないと決めた時も、そう伝えます。

最初の8週の割り振り
最初の2か月ほどの使い方を、目安として並べておきます。
| 週 | その週の1時間でやること |
|---|---|
| 1週目 | 置く場所を決め、やらないことを書き出す |
| 2週目 | 試す業務を1つ選ぶ |
| 3〜4週目 | 作業している人の横で、1回分の作業を見せてもらう。回数と分数を書き留める |
| 5週目 | 結果を受け取る人に話を聞く |
| 6週目 | 変え方の候補を書き出し、社内でできるものと外部に頼むものに分ける |
| 7〜8週目 | 小さく試し、前と後でかかった分数を比べる |
この通りに進まなくて構いません。見せてもらうのに3週かかることもありますし、話を聞いた時点で「この業務はやめてしまえばいい」と分かることもあります。表は、今どのあたりにいるかを確かめるために使ってください。8週たって何も試せていなくても、聞いた話と数字が手元に残っていれば、次の2か月はずっと早く進みます。
外部に頼む範囲
話を聞き終えると、変え方の候補が見えてきます。ここで外部の会社に相談することになるかもしれません。その時は、頼む範囲を先に決めておきます。
外部に頼むのは、ツールの設定、ほかのツールとのつなぎ込み、社内向けの小さな仕組みの作り込みです。社長が持つのは、どの業務から手をつけるか、試した結果を見て続けるかやめるか、の判断です。判断まで外に預けると、週1時間の枠では追いつけない速さで話が進み、社長が中身を分からないまま費用だけが積み上がります。
相談の前に、紙1枚のメモを用意しておくと話が早いです。書くのは、業務の名前、月に何回起きるか、1回に何分かかるか、どこで手が止まるか、使える予算の上限です。これが無いまま相談すると、最初の打ち合わせが丸ごと聞き取りに使われます。
契約は、最初は短い期間で区切ります。1か月か、1つの業務の分だけにして、途中でやめられる形にしておきます。
話を進めていると、外部の会社から、ほかの業務もまとめて見直しませんかと勧められることがあります。今の1つが終わってから考えます、と答えて構いません。週1時間で追いかけられるのは、1つだけです。相談の時には、先ほど聞いた回数や分数をそのまま渡してください。相手が見積もりの前提を推測で埋めずに済みます。
続かなかった週の見直し
週1時間は、たいてい途中で飛びます。1回飛ぶのは当たり前なので気にしなくていいです。2週続けて飛んだら、理由を1行の記録に書いてから見直します。
見直すところは主に2つです。1つは時間帯です。月曜の朝に置いたせいで毎週急ぎの用事に押し出されているなら、置く場所が悪いだけです。もう1つは題材の大きさです。1時間の中で何をすればいいか分からない週が続くなら、選んだ業務が大きすぎます。請求書全体ではなく、請求書の宛名を入れる部分だけ、のように小さく切り直します。
やめることも、見直しの結果としてありです。試した業務が思ったほど変わらなかった、現場から「元のほうが楽だった」と言われた。それが分かったのも、1時間を使った成果です。記録に残して、次の業務に移ります。
1つの業務が変わったら、次の1時間でまた1つ選びます。進み方はゆっくりです。ただ、半年分の1行の記録を並べてみると、何を試して何をやめたかが全部残っていて、次に誰かへ相談する時の一番の材料になります。
来週の予定表に、まず1時間の枠を入れるところからです。外部に頼む範囲の線引きで迷った時にどんな相談ができるかは、DX推進・伴走支援にまとめています。



