AIに下書きさせた文章は、読みやすく整っています。整っているぶん、送る側の読み方が甘くなります。自分で一から書いた文章なら「ここは自信が無い」と分かる場所がありますが、AIの文章はどこも同じ調子で書かれていて、怪しい所が目立ちません。
社外に出る文書で困るのは、一度送ったら取り消せないことです。メールも案内文も見積書の説明も、相手の手元に届いた時点で会社の言葉として残ります。ここでは、AIの下書きを社外へ出す前に、どこをどの順で見ればいいかを書きます。
固有名詞と日付と金額
最初に見るのは、間違っていたら言い訳のきかない部分です。相手の社名と担当者名、部署名、商品名、日付と曜日、時刻、金額、数量。これらは文章の流れと関係なく、元の資料と一字ずつ照らし合わせます。
AIが取り違えやすい形には、いくつか決まったものがあります。
- 株式会社が前か後ろか、旧社名のまま、支店名の抜けなど社名の細部
- 「10月23日(金)」のような日付と曜日の組み合わせ
- 税込と税抜、単価と合計、月額と年額の混同
- 前のやり取りに出てきた別の案件の数字や名前
日付と曜日は、AIが暦を確かめずに書いていることがあるので、カレンダーを開いて一つずつ見ます。金額は、見積書と並べて一桁ずつ見ます。
過去のメールを材料として貼って下書きさせた時は、とくに注意します。貼った中に別の取引先の名前や前回の金額が混ざっていると、AIはそれを材料の一つとして普通に使います。
メールなら、本文だけでなく宛先と件名も同じ扱いで見ます。宛先の欄はAIが書いた物ではありませんが、下書きを貼り付けて送る時に、前に使った宛先が残ったままになっていることがあります。件名に前の案件名が残っているのも、よくある見落としです。
署名までAIに書かせた時は、役職名、電話番号、住所が今のものかも確かめます。材料に無い番号をAIがそれらしく埋めていたり、古いメールを貼った時に前の部署名が残っていたりします。相手が折り返しの電話をかける先なので、一桁の違いでも連絡が届かなくなります。
書いていない約束
次に見るのは、頼んでいないのにAIが足した約束です。AIは丁寧で感じのよい文章を書こうとするので、相手に安心してもらえそうな一言を自分から添えることがあります。
たとえばお詫びのメールを頼むと、「今後このようなことが無いよう、全件の再点検を実施いたします」と書いてくることがあります。実際にその点検をする予定が無ければ、この一文は守れない約束です。問い合わせへの返信なら「翌営業日までにご回答いたします」、見積の説明なら「追加費用は一切発生いたしません」。どれも書いた覚えの無い約束が、会社の名前で相手に届くことになります。
見つけ方は単純で、文末が「いたします」「いたしません」「させていただきます」になっている文を拾って、一文ずつ本当にできるかを考えます。とくに納期、保証、返品や返金、無償での対応、対応する範囲に関わる言い切りは、担当者一人で決めてよい話かどうかも合わせて確かめます。
下書きを頼む段階で「材料に無い約束や条件は書かないでください」と一言添えておくと、こうした足し算はかなり減ります。減るだけで無くなりはしないので、確認は省きません。
約束とまではいかなくても、言い切りの強さも見ておきます。「必ず」「確実に」「一切」「すべて」といった語は、AIの文章に入りやすい語です。現場の実態が「ほとんどの場合は」なら、そう書き直します。言い切った一語が、あとで相手から「こう書いてありましたよね」と示される根拠になるからです。
AIに数字と約束を抜き出させる
人が読む前に、下書きの中から確かめる対象だけをAIに抜き出させておくと、作業が早くなります。抜き出させるのは次の二つです。
- 固有名詞、日付、金額、数量の一覧
- 当社が相手に何かを約束している文(言い換えずに、元の文のまま)
返ってきた一覧を、元の資料と一行ずつ照らし合わせていきます。文章の中に散らばっている数字や約束を、長い文章を読み返しながら拾うより、並べた方が見比べやすいからです。約束の一覧を見て、初めて「こんなことまで書いていたのか」と気づくこともあります。
一覧にも拾い漏れはあるので、本文を読む時の手がかりとして使います。
社内の決まりとの食い違い
次に、会社として決めていることと食い違っていないかを見ます。AIは一般的な商習慣には詳しくても、自社の決まりは知りません。
見ておきたいのは、支払条件(締め日と支払日、振込手数料をどちらが持つか)、見積の有効期限、営業時間や問い合わせの受付時間、キャンセルの扱い、個人情報の取り扱いについての書き方などです。一般的な書き方としては正しくても、自社の規程と一文字違えば、それは誤りです。
こうした決まりは、担当者の頭の中にしか無いことも多いです。よく使う決まりを一枚にまとめて、下書きを頼む時に毎回材料として渡すようにすると、食い違い自体が起きにくくなります。一枚に入れるのは、会社の正式な名称と住所、支払条件、営業時間、返信の目安、よく使う結びの挨拶くらいで十分です。まとめる作業そのものが、社内で決まっていなかった点を見つけるきっかけにもなります。AIを使う時の社内の決まり全体をどう作るかは、生成AIの社内ルールの作り方にまとめています。
敬語と温度感
最後に、言葉の丁寧さが相手との関係に合っているかを見ます。AIの文章は、放っておくと一律に丁寧になりがちです。長く付き合いのある取引先に「平素より格別のお引き立てを賜り」から始まるメールが届くと、急に他人行儀になったように受け取られるかもしれません。反対に、初めての相手にくだけた書き方をすると、失礼に取られます。

敬語そのものの誤りも見ておきます。二重敬語や、相手の動作に謙譲語を使っている箇所は、AIの文章でもときどき混ざります。声に出して読むと、引っかかる所が見つかりやすくなります。相手の会社の呼び方も見ます。AIの下書きでは「貴社」と「御社」が一通の中で混ざっていることがあります。メールや案内文は書き言葉なので、「貴社」にそろえます。
温度感で迷った時は、その相手に前に送ったメールを一通見返してください。自分たちが普段どのくらいの距離感で書いているかが、一番の基準になります。前のメールを材料として渡し、同じくらいの丁寧さでと頼む方法もあります。
見る順番
ここまでの4か所を、毎回すべて同じ重さで見る必要はありません。取り返しがつかない物から先に見ます。金額や日付、約束の言い切りは、間違えると相手に実害が出ます。敬語の温度感は、ずれても次のメールで取り戻せることが多い。見る時間が限られている日は、金額・日付と、約束の言い切りを優先してください。
急ぎの返信ほど、確認を飛ばしたくなります。そういう時こそ、全部を読み直すのはあきらめて、数字と約束の文だけを拾って見る。それだけでも、送ってから青くなる場面の多くは防げます。ただし、金額や契約に関わる文書だけは、急ぎでも送る担当者に加えて決裁する人に一度見てもらいます。
AIの下書きは、書く時間を短くしてくれます。短くなった時間の一部を、この確認に回すくらいでちょうどよいと考えています。



