この記事の要点
業務システムを既製品にするか自社用に作るかは、業務のうち自社にしかない部分がどれだけあるかで決まる。今の Excel や紙の帳票を並べ、欄ごとに同業他社にもあるかを確かめると固有の部分が見える。社内の手順は既製品に合わせてよく、お客様への約束や選ばれている理由に関わる部分は合わせない。固有の部分が一部に固まっているなら、既製品を中心にその部分だけ作り、データの出し入れの口でつなぐ形が現実的である。判断の前に、他社に無さそうな欄を、候補の既製品の無料体験で実際に入れてみる。
既製品のクラウドサービスで済むなら、それに越したことはありません。契約した翌日から使えて、機能の更新もサービスを出している会社がやってくれます。自社用に作るのは、既製品では困る理由がはっきりしている時だけでいい、というのが当社の考えです。
ただ、その困る理由が社内で言葉になっていないまま、どちらかに決めてしまうことがあります。無料体験で少し触って「なんとなく合わない」で終わる。営業担当のデモを見て契約したのに、半年たっても Excel が横で動いている。どちらも、自社の業務のどこが他社と違うのかを確かめる前に決めています。順番が逆です。
自社にしかない業務の見つけ方
業務システムで扱う仕事の多くは、どの会社でも似た形をしています。注文を受け、請求し、入金を確かめる。お客様の連絡先を管理する。出退勤を記録する。このあたりは既製品の得意分野です。たくさんの会社の使い方を取り込んで作られているので、自社で一から考えるより整っていることがほとんどです。
会社ごとに違いが出やすいのは、たとえば次のようなところです。
- 見積もりの出し方(現場を見てから単価を組み合わせる、過去の似た案件から出す、など)
- 仕事の進み具合の区切り方(その業界や会社にしかない「仮押さえ」「材料待ち」のような段階)
- 誰が何を確かめてから次の工程へ進むか
- 取引先ごとの例外の多さ
見つけ方は地味です。今使っている Excel や紙の帳票を机に並べ、欄を1つずつ見ながら「この欄は同業他社にもありそうか」と自問します。ありそうな欄はそのままにして、うちにしかないと思う欄にだけ付箋を貼っていきます。
付箋を貼った欄には、その形でないと誰が何に困るのかを1行ずつ書きます。ここが大事で、今の帳票には昔の担当者がたまたま作った欄がそのまま残っていることがあります。困る人を書けない欄は、固有の業務というより、ただの習慣かもしれません。1行が書けた欄だけが、本当に自社にしかない部分です。数は少なくてかまいません。
業務を合わせるか、合わせてもらうか
既製品を選ぶということは、業務の側を既製品の流れに寄せるということです。寄せられるかどうかの目安は、変えた時に社外の人が気づくかどうかです。気づかないなら寄せてしまっていい。
社内の承認の順番や、日報の項目の並び方は、既製品に合わせて変えても、お客様は気づきません。むしろ既製品の流れに乗った方が、担当者が替わった時の引き継ぎが楽になります。
一方、お客様に出す見積書の中身や、納期の答え方、問い合わせへの返し方が他社との違いになっていて、それで選ばれているなら、そこは既製品に合わせない方がいいと考えます。既製品の型に押し込んだ結果、その会社らしさが消えてしまうのは、システム代よりずっと高くつきます。
既製品にも、設定で変えられる範囲があります。項目の名前を変える、入力欄を足す、といった程度なら、追加の費用なしでできるサービスもあります。気をつけたいのは、設定の範囲を超えて個別に作り込む場合です。既製品が更新された時に、作り込んだ部分が動かなくなることがあります。どこまでが設定で、どこからが個別の開発になるのかは、契約前にサービス側へ確かめておきます。
既製品と自社用を組み合わせる形
どちらか一方に決めず、組み合わせる形もあります。
1つは、既製品を中心にして、付箋を貼った部分だけを自社用に作る形です。たとえば会計や勤怠は既製品のまま使い、見積もりの計算だけを自社用の小さな画面にする。計算した結果は、CSV のファイルや API(システム同士がデータを受け渡すための窓口)で既製品に渡します。

この形が成り立つかどうかは、既製品にデータの出し入れの口があるかで決まります。口がなければ、手で転記するしかなくなります。出し入れの口は、そのサービスをやめる時にデータを持ち出せるかどうかにも関わります。契約の前に、どんな形で出せるかまで確かめておくと安心です。
もう1つは逆に、仕事の流れの本体を自社用に作り、メールの送信や決済、地図の表示のような部品は既製のサービスを組み込む形です。流れそのものが独自の会社には、こちらが向いています。部品まで自前で作る必要はありません。
| 今の状況 | 向いている形 |
|---|---|
| 付箋を貼る欄がほとんど無い | 既製品をそのまま使う |
| 付箋が1〜2か所に固まっている | 既製品を中心に、その部分だけ作ってつなぐ |
| 仕事の流れそのものが独自 | 本体を自社用に作り、部品は既製を使う |
| 業務の形がまだ決まっていない | 既製品かスプレッドシートで試してから決める |
表の最後の行は見落とされがちです。始めたばかりの事業や、やり方を変えている最中の業務は、作っても半年で形が変わることがあります。形が落ち着くまでは既製品やノーコードのツールで回しておく方が、無駄が少なく済みます。
無料体験で見るところ
既製品の無料体験は、画面をひととおり眺めて終わりにしがちです。それではメニューの多さに感心するだけで、自社に合うかどうかは分かりません。見るところを先に決めてから触ります。見るところは多くありません。
まず、付箋を貼った欄を実際に入れてみます。入力欄を足して入るのか、備考欄に文章で書くしかないのか。備考欄に逃がすしかない欄が多いなら、その既製品では固有の部分を扱えていないということです。備考に書いた内容は、あとで集計にも検索にも使いにくくなります。
次に、先月の実際の仕事を1件、最初から最後まで流してみます。お客様の名前や金額は仮のものに置き換えてかまいません。途中で内容が変わった、一部だけ取り消した、といった普段よくある例外も入れてみてください。担当者が「これはどこに入れるんですか」と手を止めた場所が、既製品と自社の業務がずれている場所です。そこをメモします。
触ってもらうのは、毎日その仕事をしている人です。決める人が触って気に入っても、使う人が困れば、結局 Excel に戻ります。
最後に、入れたデータを取り出してみます。一覧を CSV で出せるか、会計ソフトに渡す形で出せるか。出してみた結果を Excel で開いて、文字化けや欠けている列がないかを見ておくと、組み合わせる形を選ぶ時の判断材料になります。
作った後に残る費用
自社用に作ると決めた時に、見積もりの金額だけで判断しないでください。作ったシステムは、使い始めてからも手がかかります。スマホやブラウザの更新に合わせた修正、使っている部品の更新、使いながら出てくる「ここを直してほしい」への対応。既製品の標準の機能なら、これらは月額の中に含まれていることが多いですが、自社用では保守の契約として別に考えることになります。
比べる時は、5年なら5年と期間を決めて、既製品の月額の合計と、自社用の開発費に保守の費用を足したものを並べます。既製品の側には、合わない部分を手作業で補う時間も入れておきます。この手作業の時間は、実際に測ってみないと分かりません。1日10分の転記でも、担当者が3人いて、年に250日働くとすると、5年で600時間を超えます。測る時は、1〜2週間ほど、転記にかかった時間をその都度メモしておくだけでも目安になります。
決める前に社内でやること
ここまでを、社内の作業に直すと次のとおりです。
1.今の帳票と Excel を全部並べ、同業他社にも無さそうな欄に付箋を貼る2.付箋の欄ごとに、その形でないと誰が何に困るかを1行書く3.候補の既製品の無料体験で、付箋の欄を実際に入れてみる4.入らなかった欄だけを持って、作る側の会社に相談する
4まで進むと、相談の中身がかなり具体的になります。作る側も、どこを作ればいいかが最初から見えるので、見積もりの幅が狭くなります。付箋の欄を見ながら既製品と自社用のどちらが合うかを一緒に考えたい時は、アプリ・システム開発のページからご相談いただけます。
よくある質問
- 既製品と
自社用、 どちらが 安く 済みますか? - 最初の費用は既製品の方が低いことが多いですが、使い続ける年数と利用人数、合わない部分を手作業で補う時間まで入れて比べないと判断できません。自社用は作った後の保守の費用も見込んでおきます。
- 自社に
しかない 業務か どうかは、 どう 見分けますか? - 今の帳票や Excel の欄を1つずつ見て、同業他社にもあるかを考えます。うちにしかないと思う欄には、その形でないと誰が何に困るのかを1行書きます。書けない欄は、昔の形がそのまま残っているだけのことがあります。
- 既製品を
使いながら、 一部だけ 作る ことは できますか? - できます。既製品がデータの出し入れの口(CSV の取り込みや API)を持っていれば、足りない部分だけを自社用に作ってつなげます。契約前に、その口があるかと、どこまで使えるかを確かめておきます。





