業務で使うクラウドサービスを選ぶとき、多くの会社は機能表と料金表を並べて比べます。それ自体は正しいのですが、1つ抜けやすい項目があります。やめるときにどうなるか、です。
クラウドサービス(インターネット経由で使うソフトで、SaaS とも呼びます)は、自社のパソコンに何も残らない形で動きます。顧客名簿も、売上の記録も、やり取りの履歴も、置き場所はサービスを提供する会社のサーバーです。便利な反面、やめるときにそのデータを持ち出せなければ、何年分もの記録がそこで止まります。
使い始めると、データは毎日増えます。増えるほど乗り換えの手間は大きくなり、「不満はあるけれど、移すのが大変だから続けている」という状態になりがちです。だから、やめ方は使い始める前に確かめておくのがいちばん安上がりです。
データを持ち出せる形式
最初に確かめたいのは、自分たちが入れたデータを、自分たちで取り出せるかどうかです。見ておきたいのは、形式と範囲、それから誰が出せるかです。
まず形式。CSV のように表計算ソフトで開ける形式で書き出せるなら、他のサービスへ移すときの材料になります。そのサービスの中でしか開けない独自の形式や、PDF でしか出せない場合は、移す先で取り込めません。
範囲も見落としやすいところです。書き出せるのが一部の項目だけ、直近の分だけ、ということがあります。顧客の基本情報は出せても、対応の履歴やメモ欄、添付した写真や書類は出せない、という形もあります。過去の年度の分まで全部出せるかを確かめてください。
そして、誰が出せるか。管理画面のボタン1つで自分たちで出せるのか、サポートに依頼して何日か待つのか、依頼すると別料金がかかるのか。自分たちで出せる形がいちばん安心です。
これは営業担当に聞くより、無料のお試し期間に実際に書き出してみるのが確実です。何件かデータを入れて書き出し、表計算ソフトで開いて、全件そろっているか、文字化けしていないかを見ます。
開いたら、中身の意味が読めるかどうかも見てください。項目名が英字の略号になっていたり、「対応状況」のような選択肢が1や2といった番号で出てきたりすることがあります。その場合は、番号と意味の対応表も一緒にもらえるかを聞いておきます。対応表が無いと、移した先で番号の意味を一つずつ推測することになります。
契約した後も、書き出しは年に1回くらい試しておくと安心です。サービスの画面が変わって、書き出しの場所や形式が変わっていることがあるからです。いざやめる時に初めて試すより、ずっと落ち着いて対処できます。
公的な資料にも同じ観点があります。情報処理推進機構(IPA)が中小企業向けに出しているクラウドサービス安全利用の手引きには「利用終了時のデータを確保する」という確認項目があり、会計システムを乗り換える例で、過年度データを含む全データを返してもらえるか、他のサービスと互換性のある形式か、移行先で一括して取り込めるかを確かめるよう書かれています。手引きは中小企業の情報セキュリティ対策ガイドラインの付録の1つです。
解約の手順と期限
次に確かめるのは、解約の申し込み方です。ここは契約書や利用規約の細かい字に書かれていることが多く、読み飛ばされがちです。
まず、契約の期間と自動更新です。年単位の契約で自動更新になっている場合、更新日の一定期間前までに申し込まないと、もう1年分の料金がかかることがあります。何日前までなのかは、サービスごとに違います。
次に、申し込みの方法です。管理画面から手続きできるのか、決まった書式を郵送するのか、電話でしか受け付けないのか。担当者が異動していても、会社として手続きできる方法かどうかを見ておきます。
最低利用期間と、途中で解約した時の扱いも確かめます。年契約の途中でやめても残りの月の分は返ってこない、という条件は珍しくありません。それ自体が悪いわけではなく、知らずに契約するのが困るのです。

解約した後のデータ
解約した後、預けていたデータがどうなるかも契約前に聞いておきます。
聞くことは2つです。1つは、解約してからいつまでデータが残るか。解約した日にすぐ見られなくなるのか、一定の期間は閲覧や書き出しだけできるのか。書き出しを忘れたまま解約すると、取り戻せないことがあります。
もう1つは、消えることの確かさです。顧客の個人情報を預けていたなら、解約後にきちんと消されるかどうかは会社の責任にも関わります。削除の時期や方法が書面で示されているかを見てください。
実務では、解約の申し込みをする前に書き出しを終えて、書き出したファイルを開いて中身を確かめてから手続きする、という順番を決めておくと事故が起きません。
料金改定の扱い
使い始めた後に料金が上がることは、クラウドサービスではよくあります。利用規約に、提供する会社が料金を変更できると書かれているのが普通です。
契約前に確かめたいのは、値上げの知らせがいつ、どの方法で届くかと、値上げを理由に期間の途中でやめられるかです。知らせが管理者のメールアドレスにしか届かないなら、そのアドレスを誰が見ているかも関係してきます。
人数で料金が決まるサービスなら、社員が増えたときの金額も計算しておきます。いまの人数では安くても、倍の人数になった時に別のサービスより高くなることがあります。
管理者が1人だけという状態
最後は契約の条件ではなく、社内の持ち方の話です。
クラウドサービスを導入した担当者だけが管理画面のIDとパスワードを知っていて、登録したのもその人の個人のメールアドレス、支払いもその人のクレジットカード。小さな会社ではよく見かける形ですが、かなり危うい状態です。その人が休んだり辞めたりすると、設定を変えることも、データを書き出すことも、解約することもできなくなります。
対策は難しくありません。管理者の権限を持つ人を2人以上にする。登録には会社のメールアドレスを使う。どのサービスを、いつから、いくらで、誰が管理者で契約しているかを1枚の表にまとめておく。この表があるだけで、使っていないのに払い続けているサービスにも気づけます。
契約前に確かめる質問
営業担当や問い合わせ窓口に聞くときは、次の質問をそのまま使ってください。答えは口頭でなく、メールなど文面で残しておくと後で確かめられます。
- データは管理画面から自分たちで書き出せますか。形式は何ですか
- 書き出せるのは全項目・全期間ですか。履歴や添付ファイルは含まれますか
- 書き出しに別料金や日数はかかりますか
- 契約期間と自動更新の有無、解約の申し込み期限を教えてください
- 解約はどの方法で申し込めますか
- 最低利用期間と、途中解約した時の料金の扱いを教えてください
- 解約後、データはいつまで見られますか。削除はいつ、どう行われますか
- 料金を変更する時は、いつ、どの方法で知らせが来ますか
- 値上げの時に、期間の途中で解約できますか
- 管理者の権限は何人まで設定できますか
10問すべてにすらすら答えが返ってくるサービスは、やめる人のことまで考えて作られていると見てよいと思います。答えが曖昧だったら、それも選ぶ材料です。
サービスを比べる段階で相談したい場合はDX推進・伴走支援、既存のサービスでは合わない業務を自社用のシステムにしたい場合はアプリ・システム開発のページが入口です。



