「AIで介護の仕事が楽になるって聞くけど、うちみたいな小さい事業所で実際なにができるの?」——大分の医療・介護の現場でよくいただく質問です。人は増やせない、でも書類は増える。この板挟みが一番つらいところだと思います。
先にお断りしておきます。この記事に出てくる事例は、実在するお客様の話ではありません。業務の型から組み立てた「想定モデルケース」です。実際にどれだけ楽になるかは事業所ごとに違います。実績のように読める書き方をするのは不誠実なので、はっきり書いておきます。
ケアの時間を奪っているのは、たいてい「3つの事務」
現場のお話を伺っていると、事務仕事はだいたいこの3つに分かれます。どれからAIを入れるかで、効き方がまったく違います。
- 書類…計画書、報告書、ご家族へのお便り。「文章を書く」時間
- 連絡…申し送り、シフト調整、長いメールの往復。「読んで整理する」時間
- 転記…紙からExcelへ、Excelからシステムへ。「同じ数字を打ち直す」時間
先に結論を言うと、AIが得意なのは①と②です。③の転記は、実はAIより「入力を1回にする仕組みを作る」ほうがずっと効きます。ここを取り違えると、見た目は最新なのに現場が楽にならない、ということが起きます。

①書類:AIは「たたき台を出す係」。決めるのは人
一番わかりやすく効くのがここです。訪問介護計画書、モニタリング報告書、ご家族へのお便り。どれも「ゼロから文章を書き起こす」のが一番しんどいところで、AIはそこを肩代わりできます。
使い方はシンプルです。箇条書きのメモを渡して、「これを◯◯の書式で、ご家族向けのやわらかい言葉にしてください」と頼む。出てきた文章を人が読んで直す。AIは下書き係で、決裁するのは人——この線を最初に引いておくと、現場も受け入れやすくなります。
逆にやってはいけないのは、AIが書いた文章をそのまま提出することです。もっともらしい嘘(実際にはなかった様子や、言っていない発言)が混ざることがあります。必ず人が読んで直す。これは効率化の話ではなく、記録の信頼性の話です。
②連絡:長い文章を「短くする」のはAIの得意技
申し送りノートが長い、メールが長い、グループチャットが流れて追えない。この「読んで整理する」時間も、実はかなり取られています。AIは要約が得意なので、長い連絡を3行にまとめてもらう、決まったことだけ抜き出してもらう、といった使い方ができます。
会議やカンファレンスの議事録も同じです。録音から文字起こしして要点だけ残す、という流れは今かなり現実的になっています。ただし録音・要約する場合も、次の章の個人情報の話が先に来ます。
③転記:ここはAIではなく「入力を1回にする」で解く
紙に書いた数字をExcelに打ち、Excelの数字を請求システムに打ち直す。同じ数字を3回打っている——この状態は珍しくありません。
ここでAIに「読み取らせる」発想に行きがちですが、たいてい遠回りです。そもそも入力を1回にする(最初からタブレットやスマホで入れる)、システム同士をつなぐ、という設計のほうが確実で、ミスも減ります。AIは「賢く読み取る」のは得意でも、「間違いなく100%読み取る」保証はできません。請求の数字にそれは向きません。
「AIで全部やる」ではなく、「AIが向く仕事と、仕組みで解く仕事を分ける」。ここを分けられるかどうかが、投資が無駄になるかどうかの分かれ目です。
一番大事な話:利用者さんの情報をAIに入れていいのか
ここを飛ばして便利さの話をするわけにはいきません。医療・介護の情報は、個人情報のなかでも特に配慮が必要なものです。守ってほしいのは3つです。
- 一般向けの無料AIに、実名・生年月日・病名・住所をそのまま入れない。まず匿名化する(「Aさん・80代女性」など)
- 入力した内容をAIの学習に使わせない設定・契約になっているか確認する。法人向けプランではこれが選べることが多い
- 「何を入れていいか・いけないか」を紙1枚のルールにして、先に全員へ配る。ツールを入れるより先にやる
スタッフが個人のスマホで、良かれと思って利用者さんの情報を無料AIに入れてしまう——これが一番ありがちな事故です。禁止するだけだと隠れて使われるので、「これならOK」の線を示すほうが現実的です。実際の運用は事業所の規程や委託契約にも関わるので、迷ったら顧問の先生や保険者にも確認してください。
想定モデルケース:小さな訪問介護事業所で試算すると
以下は実在の事業所の実績ではなく、「こういう前提だとこうなる」という算数です。前提を変えれば結果も変わります。自分の事業所の数字を当てはめて考えるための、たたき台として見てください。
| 業務 | 置いた前提 | AIを下書き係にした場合の試算 |
|---|---|---|
| 報告書・お便りの作成 | 1本30分 × 週4本 | 下書きが出る分を半分と置くと 週1時間 → 月およそ4時間 |
| 申し送り・長文連絡の整理 | 1日15分 × 月20日 | 要約で3分の1に減ると置くと 月およそ3時間 |
| 転記 | 1日20分 × 月20日 | AIでは減りにくい。入力を1回にする設計で解く領域 |
※上の数字はすべて、置いた前提から計算した試算です。実測値ではありません。ご自身の事業所で「1本何分かかっているか」を1週間だけ計ってみると、当てはめられる数字になります。
何から始めるか:一番いやな書類1種類から
- 「何を入れていいか」のルールを紙1枚で決める(ツール導入より先)
- 一番いやな書類を1種類だけ選ぶ。全部やろうとしない
- その書類のたたき台をAIに書かせ、人が直す運用を1ヶ月やってみる
- うまくいったら2種類目。だめなら別の書類に変える(ツールのせいとは限らない)
いきなり全部の業務にAIを入れると、現場は「また新しいことが増えた」と感じて止まります。1種類から始めて、スタッフが「これは楽だ」と実感してから広げるほうが、結局は早いです。
まとめ:AIに任せるのは「文章」、仕組みで直すのは「転記」
書類と連絡はAIが下書き係として効きます。転記は入力を1回にする設計で解きます。そして何より先に、利用者さんの情報の扱いを決めておく。この順番を守れば、小さな事業所でも無理なく始められます。
「うちの場合、どの書類から手をつけるのが早いか」——そこだけでも一緒に整理できます。当社は大分でDX・AI導入の伴走支援をしている会社です。医療・介護向けの専用パッケージを売っているわけではないので、まずは現場の困りごとを伺って、AIで解く部分と仕組みで解く部分を切り分けるところからご相談ください。
※本記事の事例・数字は、実在の事業所の実績ではなく、置いた前提から計算した想定モデルケースです。効果を保証するものではありません。個人情報の取り扱いは、事業所の規程・委託契約・関係法令の確認が必要です。



