新しいツールを入れて3か月たったころ、社長から「で、どれくらい楽になったの?」と聞かれる。担当者は「前よりは楽です」としか答えられない。業務改善でよく見かける場面です。
答えられないのは、効果が無かったからとは限りません。比べる元の数字が、どこにも残っていないからです。始める前の作業にどれくらい時間がかかっていたかを誰も測っていなければ、後から「前は何時間だった」と言う材料がありません。ここでは、始める前に今の作業時間を測っておく方法を、なるべく手間をかけずにできる形で書きます。
始めた後では測れない理由
作業時間は、変えてしまった後からは測れません。当たり前の話です。それでも、ここで困る会社は多いです。
新しいやり方が始まると、古いやり方はもう行われません。手書きの伝票をスプレッドシートに書き写していた作業は、書き写しが無くなった時点で再現できなくなります。思い出して見積もる手もあります。ただ、人の記憶は当てになりません。大変だった作業ほど長めに、慣れていた作業ほど短めに覚えているものです。
もう1つ困るのは、次の判断ができなくなることです。1つ目の改善の効果が言えないと、2つ目に何へお金と時間をかけるかを決める根拠がありません。「なんとなく良かった気がする」は、次の投資を説明する材料になりません。
測る作業の選び方
会社の作業を全部測る必要はありません。全部やると続きません。測るのは、これから変えようとしている作業だけです。
たとえば、受注の連絡を受けてから請求書を出すまでを改善したいなら、その流れに含まれる作業を書き出します。電話やメールで注文を受ける、内容を台帳に書く、在庫を確かめる、請求書を作って送る。このくらいの粒度で十分です。
1つだけ気をつけたいのは、変えようとしている作業のすぐ前と後も入れておくことです。ある作業を自動にしたら、その前後で確認の手間が増えることがあります。前後を測っていないと、減った分だけを見て「効果があった」と判断してしまいます。
どの作業から変えるかがまだ決まっていないなら、業務の棚卸しを先にやるほうが近道です。
回数と1回の時間で数える
測り方でいちばん手間がかからないのは、作業ごとに回数と1回のおおよその時間を記録するやり方です。1日の全部の時間を細かく記録する方法もありますが、続きません。続かない記録は、無いのと同じです。
記録するのは、次のような表で足ります。
| 日付 | 作業 | 回数 | 1回の時間(目安) | 気づいたこと |
|---|---|---|---|---|
| 10月2日 | 注文を台帳に書き写す | 正の字で数える | 10分 | 手書きの注文書が読みにくい |
| 10月2日 | 在庫を電話で確かめる | 正の字で数える | 5分 | 倉庫の担当が不在で折り返し |
回数は作業をするたびに正の字を1本足し、1回の時間は最初の数回だけ時計を見て決めます。5分単位、10分単位のおおよそで構いません。
期間は1〜2週間が目安です。1日だけだとたまたま多い日や少ない日に当たりますし、1か月以上続けると記録する側が疲れます。月末の締めのように、時期によって量が変わる作業があるなら、その時期を含むように期間を選んでください。
集計は掛け算です。たとえば1回10分の作業が1日6回、月に20日あれば、10分×6回×20日で1,200分、1か月に20時間になります。このくらいの数字が1つあるだけで、「この作業に月20時間かかっていたのが、導入後は何時間になった」と話せるようになります。

記録を頼むときの伝え方
記録するのは、その作業をしている本人です。上司が横で時間を計ると、普段とは違う速さで作業してしまいます。
頼むときに先に伝えたいのは、何のために測るかと、個人の評価には使わないことです。これを言わずに「作業時間を記録して」とだけ頼むと、監視されていると受け取られ、記録が実際より短くなったり、そもそも付けてもらえなかったりします。集計も人ごとではなく作業ごとにまとめ、結果は記録してくれた人にも見せます。
道具は紙で十分です。むしろ紙がいい。机に記録用紙を1枚置いておくほうが、スマホのアプリを開くより続きます。スプレッドシートにまとめるのは、集計する人が後でやれば済みます。
時間以外に数えておくもの
作業時間だけを見ていると、見落とす効果があります。始める前に、次の2つも数えておくことをおすすめします。
1つは、ミスとやり直しの件数です。書き写しの間違い、送り先の間違い、計算の直し。1件ずつは小さくても、見つけて直すのに時間がかかり、取引先に迷惑がかかることもあります。ツールを入れて作業時間はあまり変わらなかったのに、ミスが目に見えて減った、ということはよくあります。それも効果です。
もう1つは、待ち時間です。見積書を作ったのに、確認する人が外出していて半日止まっている。在庫を確かめる電話の折り返しを待っている。こうした時間は作業時間には入りませんが、お客様への返事が遅れる原因になっています。しかも、誰の記録にも残りません。「注文を受けてから返事をするまで何時間かかったか」を何件か記録しておくと、改善の後に比べられます。
この2つは、作業時間の記録用紙の「気づいたこと」の欄に書いておくだけでも、後から数えられます。
数字を費用と並べる
測った時間は、ツールや外注の費用と並べて初めて判断の材料になります。
計算は電卓で足ります。やり方は単純で、月の作業時間にその作業をしている人の1時間あたりの人件費を掛けます。月20時間かかっている作業なら、20時間分の人件費がその作業に毎月出ていることになります。これと、ツールの月額料金や作り込みにかかる費用を並べます。時給の数字は、給与と社会保険料などを合わせたおおよその額で構いません。社外に出す数字ではないので、社長が分かる形で置けば十分です。
ここで気をつけたいのは、減らせる時間は全部ではないことです。書き写しが無くなっても、中身を確かめる時間は残ります。20時間が0時間になる前提で計算すると、どんなツールも得に見えてしまいます。半分になったら、4分の1しか減らなかったら、と2つか3つの場合で計算しておくと、期待しすぎずに済みます。
逆に、並べてみて費用のほうがずっと大きいなら、その作業は後回しでいいという判断もできます。測ったことが、やらない理由になるのも立派な使い道です。
始めた後の測り方
改善を始めたら、同じ作業を、同じやり方で、同じ長さの期間だけ測ります。ここは手を抜けません。条件をそろえることが大事で、前は2週間測ったのに後は3日だけ、という比べ方では数字が意味を持ちません。
測り始める時期も選びます。新しいやり方を始めた直後は、誰でも慣れていないので時間がかかります。最初の数週間は外して、使い方が落ち着いてから測るほうが実際の姿に近い数字になります。
減った時間がどこへ行ったかも見ておきたいところです。浮いた時間は、たいてい別の仕事に吸い込まれて見えなくなります。それ自体は悪いことではありませんが、「浮いた時間で何をしたか」を一言残しておくと、改善の意味を社内で説明しやすくなります。
結果が思ったほどでなくても、記録は捨てずに残してください。どの作業には効いて、どの作業には効かなかったかが分かれば、次に手を付ける作業を選ぶ材料になります。
記録用紙は、今日の午後から机に1枚置けば始められます。どの業務から変えるかを数字と一緒に考えたい場合は、DX推進・伴走支援の進め方も参考にしてください。



